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スタディケーションのすゝめ vol 02 アグリシステム株式会社

この記事を書いた人 / 小沼 雅義
大学・学部 /明治大学 農学部 食料環境政策学科 地域ガバナンス論研究室 4年

スタディケーションのすゝめとは
 学習(study)と観光(vacation)を組み合わせた新しい概念スタディケーションを実践中。十勝で得られる学びと経験をレポートします
※記事内容はあくまでも個人の感想です。

自己紹介

 帯広市出身。大学で農業を学んでいく過程で、地元・十勝の農業のスケールや面白さを知る。大学4年の1年間を休学し、学業と観光を掛け合わせたスタディケーション事業の確立に取り組む。

第二回 アグリステム(株)編 vol.1/3

 学業と観光を両立させるスタディケーションの実践をする者として、とかち井上農場さんに引き続き、今回は大規模有機栽培に取り組んだりオーガニック食品を取扱う、アグリシステム(株)さんにお邪魔しました!

雑穀商として33年前に創業、次の時代の手段としてのオーガニックをコンセプトにパン製造・販売、雑穀の選果、酪農、オーガニックチーズ、ワイン作り、オーガニック商品を取り揃えたセレクトショップ等、農業に関するあらゆることに携わっている企業です。
 様々な場所を見学、そしてたくさんお話を伺うことができたので、今回を含め3回に分けてお伝えしていきたいと思います!

アグリシステム編は
第1回 パン工房「風土火水」←いまココ
第2回 十勝の農家と有機栽培 with 伊藤社長との車中トーク
第3回 芽室の雑穀工場と更別の牧場・チーズ工房

の3部構成でいきたいと思います!お楽しみに!

伝統的に作られたパンは"理にかなっている"

 パン工房「風土火水」”未来の子供のために”をミッションとするアグリシステムが、持続可能な地域づくりに向けて”食”から提案を行っているアグリシステムのパン工房です。

持続可能な地域を具体化する「風土火水」のアプローチは
  • 原料は有機小麦と塩、水のみを使用
  • 基本はハード系のパン
  • ヨーロッパの伝統的な製法
  • 職人さんの8時間労働
に徹底的にこだわることです。

 パンの製造はアグリシステムの契約農家500件中、わずか10件しかいない農家から集めた有機小麦を、ヨーロッパで伝統的に使われている木桶(”日本では多分ウチだけ”とのことでした。)でパンの生地をこねて発酵させることから始まります。

 木桶に付着する酵母菌・善玉菌を殺さないために洗浄や殺菌をせず、酵母菌によって防菌を施します。
これによって洗浄・殺菌の作業を減らすことが出来ています。
 ちなみにこの木桶、伊勢神宮の式年遷宮の副棟梁が手がけた、釘を1本も使っていないという特注品です。
次に、薪窯でパンを焼いていきます。
 十勝産の原料にこだわるアグリシステムはここで使う薪も十勝産です。

 こだわりの薪窯では少量生産ながら、売り切れる量を作りロスを極限にまで切り詰めます。
工程そのものは思っていたより単純と思いましたが、素材や工程の一つ一つに”合理的”な意味を持っているのが話を聞いているとだんだんわかってきました。

 その意味について大量生産との比較で後程述べていこうと思いますが、代表の伊藤さんは美味しさの理由として、
有機栽培の小麦を使用してるため、苦味やえぐみにつながる化学肥料や農薬の残留した物質がないことを挙げています。
 逆の表現では残留物質の心配がないから、本来の小麦の旨味となる層の表皮を残すことができるので美味しくなるという言い方にもなります。

 また「パンは焼きたてが美味しいというイメージですが全てがそういうことではなく、特に日本人が誤解している点でもあるが、実はハード系のパンは日にちが経ち熟成が進んだパンの方が旨みが強くなることもあり、本来1〜2週間かけて食べるものなんです」と言います。

 これは、その日で売り切らなくても良い(商品の価値が低下しない)ということにつながり、
廃棄ロス・スタッフの負担・閉店間際の値下げなどを不要とするもので”理想と経営”が合理的に成立している姿を目の当たりにした瞬間でした。


 実際に食べてみると、小麦の味が爆発するかのように口の中に広がり、どんなものでも美味しく食べられてしまう僕でさえも本物はこれだ!と思ってしまいました。
価値観を変えたい、本質的なものに出会いたい、そう思っている人は食べるべきパンであると思います。
 

”正しい”ことから距離をおく

「お客様をガッカリさせないように商品棚には、閉店まできちんと商品を揃えておく」
「安くて、美味しい商品を大量に提供する」

これは、間違いなく”大切で、正しいこと”です。

 日本の経済が成長し人口が増大する過程では、この考えは当たり前で必然のシステムでした。
多くの努力と工夫のもと、仕組みを確立させた大手メーカーのおかげで日本の隅々まで美味しい商品が行き届いたのです。
 しかし、経済が縮小し人口が減っていく日本において果たしてそれに意味があるのか?
次に挙げる問題点を上げていくと大量生産型社会が人々を幸せにしているのか、考えることになると思います。

伊藤さんから

理想を突き詰めると(経営として)実現した

という印象深い言葉を聞くことが出来ました。
 時代や業界の”正しい”とされていることをしっかりと認識し、それと距離をおくことができれば”(非効率と思われがちな)理想の中に、きちんと合理性を得ることができる”
ということでした。

廃棄ロスは、ある意味"正しい考えから"生まれている

 パン屋さんの店頭では
  1. お客さんをがっかりさせないよう、閉店まで商品を切らさないように並べ、
  2. 閉店まで商品を並べておくということは、計画的に”廃棄”を作ることにつながり
  3. 計画的な廃棄は”コスト”として商品に上乗せされ、
  4. 上乗せされたコストを下げるため、低価格な素材の使用や機械化を進め
  5. 機械化等にかかったコストを回収するため、さらに多くの商品を作り、、

、、、、ということが起こっています。

 さらに、大手メーカーなどの大量生産モデルでは1つのパンを作るコストを少しでも抑えることで、全体でとんでもない利益が生まれます。
これがインセンティブとなり、元々のパンからどんどん質を落としコストのかからないパンが出来上がっていきます。そして、コストが安く済む分、最初からロス代を価格に上乗せできる、、、という循環が出来上がります。

これらの事象が自分の社会をよくしているのかと言われると素直にイエスとは言えないなと僕は思います。

 現代日本では食糧に困っている人が、これまで日本社会が歩んできた時代と比べてかなり減っている現状から考えても、ナショナル商品の存在意義は弱まっていると思いますし、どうせなら美味しく体に良いものを食べたいと考える人も多い、そう感じます。

さて、次世代のためには別の価値観があっても良いのではないだろうか?と皆さんが思ったところで(「アルチザン・エコノミー」を紹介したいと思います。

アルチザン・エコノミー=職人経済

 アルチザン・エコノミーとは直訳すると職人経済という言葉になります。
 簡単に説明すると、あるエリアが生産者・加工者・消費者に至るまで多様なプレーヤーで溢れ、地域全体に「こだわり」が蔓延するような経済のあり方をこう呼びます。

 美味し物を食べたい!体にいいものが欲しい!という多様な消費者に対して、自分のこだわりで作る職人がそれに応えていくような社会構造を思い浮かべていただけたら、想像しやすいかもしれません。

 パン食文化の欧米では、大量生産・大量消費が行われるまでは村のパン屋が周辺の小麦農家から小麦を仕入れ(もちろん無農薬で化学肥料を使っていない)、持ち前の石臼で粉を作りパンを焼くのが本来の姿で、現在になって突然でできたものではありません。

 Quality of Life という言葉が浸透するまでに成熟した社会では、この考え方がうまく活用され、人々の生活の質をあげていくための手段となりうるのではないかと思います。

こだわってものを作ると、コストが高くつくのでは?

 こだわってものを作ると高くついてしまうのでは?という疑問を伊藤社長にぶつけてみたところ、
「生産→加工→流通→販売→消費、これが近ければ近いほどコストはかからず、使っている材料は小麦・塩・水だけなので高くはならないんです。オーガニックと地産地消は相性が良く、パンに副素材、いわゆる肉・野菜などを加えていくとその分だけ高くなっていく、そんなメカニズムなんですよね。」

 そして「以前参加した講習会で儲かるパン屋の秘訣として、パンを砂糖と油まみれにパンをして消費者を中毒にさせることが紹介されていたのを聞いて、疑問に思いました。疑問に思うところのこだわりをしない、つまり砂糖と油を用いないパンを作る事で、結果としてコストを抑えることができるんです。
という答えが返ってきました。

 腑に落ちざるを得ず「なるほど」の一言が出てしまいました。  

理想とする状態

 「地産地消との相性を活用し、地元のお客さんにまずはパン屋に来てもらい、少しでもオーガニックハードパンが浸透し、これを食べる文化を作りたいですね。」
また、「オーガニックを選ぶことが慈善活動的だったり、信仰としての認知のされ方ではなく、社会をより多様に面白く、そこに住んでいる人の生活の質をあげるものだという考え方を社会に浸透させていきたいです。」
伊藤社長はそうおっしゃっていました。

筆者感想

 僕自身、有機栽培そしてオーガニック食品は一部の富裕層や意識の高い人のものだというどちらかと言うとそれ自体は良いものなのにマイナスのイメージがある矛盾する存在として認識していました。
 今回、アグリシステムの「風土火水」に伺って、その価値観はパンを食べることによって、そして今まで歩んできた社会の考え方によって揺らぎ、こんな経験を皆さんと共有できたら、アルチザン・エコノミーによる多様でなんだか面白そうな社会になるのかと想像できました。 終わり

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