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スタディケーションのすゝめ vol 01 とかち井上農場

この記事を書いた人 / 小沼 雅義
大学・学部 /明治大学 農学部 食料環境政策学科 地域ガバナンス論研究室 4年

スタディケーションのすゝめとは
 学習(study)と観光(vacation)を組み合わせた新しい概念スタディケーションを実践中。十勝で得られる学びと経験をレポートします
※記事内容はあくまでも個人の感想です。

自己紹介

 帯広市出身。大学で農業を学んでいく過程で、地元・十勝の農業のスケールや面白さを知る。大学4年の1年間を休学し、学業と観光を掛け合わせたスタディケーション事業の確立に取り組む。

第一回 とかち井上農場編

 日本全国、地域特性に合わせて様々な農業がおこなわれていますが、北日本の広大な大地でどのような農業が行われているのでしょうか?
 スタディケーションのすゝめ 第1弾として農業王国と言われる、十勝・帯広の農家さんの実態をレポートします。

十勝の農業は、日本の中ではかなりユニーク

 十勝地方は岐阜県とほぼ同じ面積に、日本で一番人口が少ない鳥取県の人口(役57万人)のおよそ半分(35万人)が暮らしている日本で最も人口密度の低い地域であると言えます。
 広大な土地を利用してジャガイモ・豆類・小麦・ナガイモ、そして砂糖の原料になるビート(甜菜)を大規模に栽培。

 牧草地では、乳牛の飼育と種牛の繁殖が盛んに行われています。農家の一人当たりの作付け面積が日本の20〜30倍に当たる40〜45haであり、このような数字からも規模感は掴めるのではないかと思います。

 日本の農業よりは海外の農業に近く、日本の中では異質の存在であり大学農学部の授業でも、十勝の農業は例外だから、、、として紹介される傾向があります。
こういった地理や独特(十勝では当たり前ですが、、)な農業形態がゆえに、日本(十勝も日本ですが(笑))ではお目にかかることのできない風景が十勝に広がっています!

 そこで、これを深く知るためには当事者に会う必要があり、帯広市大正地区でブランド「大正メークイン」というジャガイモを生産している「とかち井上農場」へお邪魔させていただき、代表の井上慎也さんにお話を伺うことができました。

いきなり、本州と十勝の農業の違いの本質がわかってしまった、、

 帯広市街地をでて大樹・広尾方面に20分くらい車で移動した郊外に大正地区はあります。
とかち井上農場では十勝の代表的な作物である、小麦・ジャガイモ・ナガイモなどを主に生産していますが、ジャガイモを「雪室」という巨大倉庫で雪を用いて、
  1. 徹底した温度管理
  2. 超長期保存での熟成
をし、それを出荷するという独自の管理・出荷方法をとっています。
 井上さんは香川県から十勝に入植してから4代目にあたり、今でも香川県の親戚とは交流があると聞きました。
 本州の農家さんのことも良く知る井上さんは
本州の農家さんは、先祖代々受け継いだ農地を守ることが重要視されるような、いわば墓守的農業を続けている人が多いよね。だから兼業という形を取り農業以外の収入で家計を支えている。でも十勝の農家は農業をビジネスとして捉える側面があって、家族でやる農業は中小企業的要素が強い傾向があるんだよね。
と説明してくれました。

それはつまり、

十勝の農家には、暮らしからビジネスに至るまでのグラデーションが存在する

ということでした。 そして、十勝の農業はビジネスという側面が強く、広い土地をどう管理するか、投入する資金をどうするかなど中小企業家の側面を持っていることを伺いました。

まさにイメージ通りの十勝農家!しかし・・・

 お話を伺い、40ha以上の農地を管理する農家であることもわかり、十勝型農業の実践者のスケールを思い知らされました。
 ところが、十勝型農家であるが故のデメリットも存在します。
十勝で新規就農するにはどれくらい必要か知ってる?2億円かかるんだよ
新規就農するには2億円かかり、十勝には新しく参入する隙間が他地域に比べてほとんどないという事実があるみたいで、それが閉鎖的な環境であったり、新しいイノベーションが起きない原因である、ということもわかりました。

 また、井上さんは「十勝」という強いブランドへの甘えが、農産品の質の低下につながる危機意識も持っています。
 これはブランドがついているために質が落ちてしまっても買い取ってくれることから、生産者の品質向上につながらないというロジックで、質より量を優先されてしまって地域全体で質が下がってしまうということが起きます。
ブランドの影にこのような問題があったとは思ってもいませんでした。

もはやスイーツ!雪室2年熟成メークイン

 そこで、井上農場さんで生産しているのが雪室で数年熟成させたメークインです。大正地区は前述の通り、メークインという品種のジャガイモの生産が盛んで、日本に流通している3分の1のメークインがここで生産されています。
 井上農場さんでは、生産したメークインを冬に降った雪を貯蔵庫に詰めた「雪室」に入れます。そこで温度・湿度の管理をすることで、ジャガイモを仮死状態にし、2年間熟成させる貯蔵を行っています。
※通常のジャガイモは秋に収穫され、大体3月ぐらいまでに消費されます。

 これをすることで、ジャガイモを糖化させ、甘味を最大限に引き出すことができます。
実際に、そのジャガイモの断面を見てみるとリンゴのように蜜が詰まっており、半透明のジャガイモになっていました!
このジャガイモ、野菜というより、まさにスイーツ!ジャガイモのステレオタイプを壊す破壊的なジャガイモ!
そんな強いインパクトを覚えました!

生まれた価値は”おいしさ”だけではない

 雪室で熟成させたメークインは首都圏のレストランに直接提供されています。
普通のメークインの3〜4倍の価格で取引され、固定相場により安定的に収入を獲得できるのがメリットです。

 ジャガイモは青果物とは違って、加工されてポテトチップスやコロッケ、片栗粉と形を変えて消費者とつながるので生産者からするとその存在と繋がっているという感覚が薄いのが現状です。
なので、作ったジャガイモが”おいしいかどうか”より、どれだけ”規格を満たして生産されるか”が優先されがちです。

 しかし、井上さんは、雪室によって付加価値が生まれたジャガイモを直接レストランに届けるようになり、ジャガイモの味のフィードバックを得たことで、味に影響する肥料の量を調節するようになったそうです。
つまり、消費者に近づいたことが農業形態を変え、より付加価値の高いものに昇華する結果をだせたことになります。

こだわり続けないと、辿り着かない

 雪室メークインを生み出すまでには相当なハードルがあります。
井上さんが雪室メークインの取り組みを始めたのは5年以上も前になります。
巨大な倉庫に断熱材を吹きかけて大きな冷蔵庫にし、雪以外の温度・湿度を保つための設備をこしらえなくてはなりません。適切な雪の量を把握するにも、まず自分でやってみるしかありませんでした。
 その上、2年熟成させるのですぐに成果が出ないことも高いハードルになります。
 これらに耐えられるだけの辛抱強さとエネルギーを要し、達成できたものだけが作ることができる、それが雪室メークインということになります。

見えてくる新しい可能性

 ジャガイモを熟成して糖度を上げる手法は海外ではやっていない取り組みだそうです。
 なので、付加価値としてはかなり高く、新たな市場を開拓できるチャンスが雪室メークインにはあると言っても過言ではありません。

 十勝のジャガイモの存在意義を示すチャンスが到来しジャガイモによるパラダイムシフトが起こる!そんな未来が来ても良い気がします。

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